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最高裁判所第三小法廷 昭和61年(あ)1426号 決定

本籍

京都市右京区西京極芝ノ下町三七番地

住所

京都市西京区桂上豆田町五〇番地の三

不動産業手伝い

辻井哲男

昭和八年二月二二日生

右の者に対する相続税法違反被告事件について、昭和六一年一一月七日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人山本淳夫の上告趣意のうち、憲法三八条二項、三項違反をいう点は、原審でなんら主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であり、その余は、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 坂上壽夫 裁判官 伊藤正巳 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島敦)

○上告趣意書

昭和六一年(あ)第一四二六号

相続税法違反上告被告事件

上告人 辻井哲男

右上告人の前記刑事被告人事件に関する上告の趣旨は左のとおりである。

昭和六二年一月二〇日

弁護人 弁護士 山本淳夫

最高裁判所第三小法廷御中

控訴審の判決は破棄されるべきである。その理由は以下の通りである。

一、上告人には本件につき故意がなく無罪である。

〔理由一〕昭和五五年一二月、鈴木、長谷部、渡守は大阪国税局同和対策室長と会談し、昭和四三年の解放同盟と大阪国税局(高木局長)との確認事項を巡って話し合い、

1.窓口一本化

2.解放同盟と同じ取扱をする事

3.青色、白色申告を問わず全日本同和会の申告を尊重する事

の三点を確認し、京都の筆頭税務署である上京税務署副署長と同年一二月二〇日会い全日本同和会の申告については総務課長扱いとするその話し合いがなされたこと

〔理由二〕全日本同和会は個別事件について担当職員と事前に相談をし知恵を授けられ大体架空領収書又は架空債務負担行為によって辻棲合わせができることを教えられて有限会社同和産業、株式会社ワールドとの架空債務作出の受皿会社の設立によって起訴状記載の如き方法で右京税務署だけで一〇〇件以上の税の申告をなした。

このことは彼等が前記確認事項及び昭和四四年七月一六日制定の同和対策事業特別措置法の精神をより実効化せんが為にその行政的裁量によって認められていると信じ同一類型の所得申告がなされてきたことを物語っている。かかる経過から見て上告人が前述の如く適法な税務処理を全日本同和会本部がしていると信じていたのは無理からぬことといえる。税務当局は税の徴収につき強力な調査権限と徴収権限が国より与えられているわけで、本件の如き税務対策を五年間も放置していたということは上告人も含む一般人にとってかような優遇処置が現存すると信じても無理からぬことであって税務当局が、かかる行為を放置していたというよりも許容していたといわれても仕方のないことである。

〔理由三〕全日本同和会自体が適法な申告であると考えていたのであるからその部外者である上告人には脱税の故意が無かったと言っても過言ではない。

上告人は弁第四号証「大阪国税局長と解放同盟との昭和四三年一月三〇日以後確認事項」、弁第五号証「大阪国税局長と解放同盟近畿ブロックとの昭和四四年一月二三日以後確認事項」、弁第六号証「大阪国税局長と解放同盟中央本部と京都府連との昭和五九年二月一四日以後確認事項」、弁第七号証「官総昭和四五年二月一〇日付国税庁長官通達」が何等かの機関誌に掲載されているのを上告人が読んでいるわけであるが普通人ならば当然それを信じるわけで、それが真実であるか否かを更に関係官庁に問合わせ等して調査する筈がなく、解放同盟が税の優遇処置を受けているという世評と併せて上告人に前述の如き違法の意識、脱税の意識が希薄化したとしても責められるものではない。

〔理由四〕上告人は昭和五三年従前より知合いであった今井正義と再会し交際が再び始まり、昭和五四年今井が全日本同和会長岡京支部長に就任し、「土地の許可申請につき便宜をはかれる」ということで上告人自身不動産業(つじせ興産)を営んでいたので通常なら一区劃の土地に一軒しか建てられない面積の土地に二軒の建物が今井(全日本同和会)の力により建築課の建築許可がおりることを体験するに及んで全日本同和会の力を信ずるようになったところ昭和五五年長谷部純夫(全日本同和会局長)から「これから同和の方も税金の申請をする(税務対策の意)。税金の紹介をしてくれたら一割の謝礼を出す。」「同和会と国税税務署の間でちゃんと話し合いが出来ている。」とのことでかかわりあいを持つようになった。昭和五七年今井氏が除名になり上告人が直接に納税者と同和会の本部との橋渡しをすることになったものである。然し上告人は納税額の二分の一を同和会のいうままに本部に納めることによって節税が合法的にできるのだと信じて疑わなかったものである。検甲第一九号証 頁)

二、本件は強力な国家権力を付与されている国税当局が解放同盟・全日本同和会に対し毅然とした態度をと天地に恥ずることのない法の運用と行政指導をやっていれば未然にその発生を防止しえた事件であると断言せざるをえない。亦、上告人の場合は脱税の故意について捜査当局は不当に長期にわたる(昭和六〇年六月一一日より同年八月五日の五六日間)取調がなれれ被告自身の自白調書が作成されそれに基づいて認定されているが憲法第三条第二項第三項に反し憲法違反といわざるをえず憲法・刑事訴訟に反した証拠によってなされた控訴審判決は破棄されるべきである。

以上

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